為末大のリカバリーストーリー。

為末 大

2024/02/27

Athlete Entrepreneur リカバリーストーリー
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今やることをやればいいんだ。
 
為末大さんの実体験を踏まえたリカバリーストーリー。
競技者として苦難を迎えた時、どのように乗り越えてきたのか?
そのヒントとエッセンスが込められたリカバリーストーリーです。

スクリプト・文字起こし

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このリカバリストーリーというコンセプトですけれども、やっぱりどんな人でも人生で辛い出来事や辛い思いをすることっていうのはあると思うんです。このつらさっていうのが、不思議とほかにも同じような思いをしている人がいるというだけで救われたりするものなんですけれども、なぜか、辛い時っていうのは、どうしても自分一人で悩んでしまったり、または言えなくなってしまうっていうことがあるんじゃないかなと思うんです。

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私はスポーツをやっていましたから、特にスポーツ界っていうのは苦しい思いに対しては、自分自身でそれに対して立ち向かって解決していかなきゃいけない。弱音を吐くとそれは現実になってしまうから、弱音を吐いちゃいけないという、そんな考え方が強い場所だったんです。ですので、多くの選手は苦しい時も苦しいとは言わずに、辛い時も辛いとは言わず、競技をやっていました。

それは一つの文化ではあったんですが、やはり競技を続けていく中で長続きはしない訳です。やはり長くやっていくと、自分の心の健康ってのはとても大切になりますから、それが持たなくなっていってしまう。そんな中で私も競技をしながら本当はもう少し素直に自分の心の中を話せた方がいいんじゃないかっていうことを思っていました。

実際に社会に出ても同じように辛い思いをしてる方、たくさんいて、そういう辛さっていうのをなかなか人に話せないという状況は多いのではないかなという風に思ったんです。大体こういう辛い出来事っていうのはある現実があり、例えば非常に今、仕事が忙しくて追い込まれてきていると、子育ての中で本当に子供と向き合っていて余裕がなかったり、他に誰か助けてって言える人もいないと、または介護なんかで生活が大変ってこともあるでしょうし、皆さん生活していく中で、それぞれいろんな大変なことがあると思うんですけれども、それが現実の問題としてあって、現実をこれをまず解決しないと苦しさが解決されないという考え方もあると思うんです。

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一方で、その現実をどう捉えるかっていうところも苦しさとしてあって、これが不思議とやっぱり誰かにこのことを話せたり、本当に思っていること、それを話せたりするだけで、少し見方が変わったり、心が楽になったりするんじゃないかと思っています。本当は、子育て1日、2日ぐらいも完全に離れて自由になりたいとか、何となく言っちゃいけないんじゃないかみたいな言葉を少し、友達や知っている方にふっと吐くだけでも辛さが解決されたり、または同じ思いの人がこんなにいるんだって思うだけで楽になるんじゃないかなと思ってます。そういう意味で私は心っていうのは必ずしも、個人だけで閉じてるものではなくて、個人と社会の間、人と人との間にあるのが心だというふうに思っています。

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私自身のリカバリストーリーなんですけれども、幾つか苦しいなと思ったことあるんですが、一番心理的に苦しかったのが、2008年の日本選手権というのがありまして、これで結果を出すことでオリンピックっていうのに出られるんですが、ダメだったらオリンピックに出られないと。

この日本選手権のちょうど2カ月ぐらい前ですかね、怪我をしまして、肉離れというのをしまして、練習ができなくなってしまうんです。それからなんとかリハビリをして、5週間前とかそのぐらいになったらまたそこで再発をしまして、ほとんどそのタイミングで怪我をすると、陸上っていうのは間に合わないことが多いんです。

それで大変落ち込んでしまって、頭は真っ白になってしまって、それが私にとってみると最後のオリンピックだというふうに思って挑んでたものだったんです。それがダメだ、ダメになりそうだということで、とても辛い思いをしました。

ただ、それでも練習は続けなきゃいけないので、毎日グラウンドに行くんですけど、痛くて走れない。歩く練習を何度も何度もしていくうちに、こんなことをやってて、本当に日本選手権で活躍できるんだろうか、みたいなことをあれこれ考えた訳です。何度も何度もそれで毎日練習に行って、少し足を動かしてみては、やっぱり痛い、やっぱり走れないやとか。友達へ話すとか、メディアの人とも話すので、どうですか調子って聞かれると、調子悪いですよとは言いにくいので、調子いいですよって言うんですけども、それ言うたびに、ドーンと自分の心に重くのしかかってきて。

あれ不思議ですね、人間というのは本当は思ってないことを、人前でこう取りつくろっちゃうところがあって、取りつくろえば、取りつくろうほど、さらに本音が言いにくくなって苦しくなることがあると思うんですけど、まさにその時はそんな感じだったんです。

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それでもグラウンドにいく時に、ちょうどどうでしょうね、(日本選手権の)2週間前ぐらいになった時に、練習をしていて、いつもと同じように歩いたり、少しジョギングして、行ったり来たりしていたんですけど、ある瞬間に、何かいきなり本当に音がさっと小さくなって、鳥の音が何て言うんでしょうか、その後に鳥の音がこうチュンチュンって聞こえてきたみたいな感覚になった時があったんです。

その時に何を思ったかって言うと、「ああ今やることをやればいいんだ」っていうことなんです。

結局、あれこれ考えても今からできることっていうのはもう決まっていて、毎日グラウンドでやれることをやるって言うだけで、その結果、未来がどうなるかっていうのも、自分にはコントロールできない訳です。それでオリンピックはダメかもしれないし、もしかしたらいけるかもしれないけれども、でもそれは自分にはコントロールできなくて。何で怪我したんだとか思うんですけど、それも結局今さら考えてもしょうがないわけです。だとしたら、今日やれることをやって、眠って、明日はまた明日やれることをやって、そうやって繰り返していくと、オリンピックの予選で日本選手権というのがやってきて、そこでしかるべき結果が出て、良かった、駄目だったっていうのが決まって、また次の日が始まっていく。あ、こうやっていくだけなんだ。こうやっていけばいいだけなんだっていうことをその瞬間に思い、すごくぱーっと自分の視界が開けたっていうことがあったんです。

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やっぱり選手はどうしても、社会性を伴ってますから、うまくいかなかった時は何て言われるんだろうとか。または、今までやってきたことは無駄になったらどうしようとか。これで駄目だったら、この後ずっと後悔して生きていくんだろうか、とか。そんな風に、他人や過去や未来のことを考えがちなんですけど、考えてみると自分が生きてるのは過去でも他人でも未来でもなくて、今ここの自分しかないんじゃないかっていうのを思った瞬間というのが、私にとってみても、リカバリーというかですね、ああ、そうやって生きていけばいいだけなんだ、という瞬間だったんです。

選手によって、いろんな辛い出来事があったり、苦しいこともありますけれども、そんな時にですね、なにか我慢して耐えていくってのが、どうしても私たちの時代にはありましたけれども、本当はですね、我慢しなくて人に何かを相談したり、または誰かの話を聞いて、心を和らげて、根本的な解決をしなくても、今日がとりあえず終わった、そして明日がとりあえず終わるという、今今今、今日今日今日というのを繰り返していくというのが、実は人生なんじゃないかなというのを、その時に思ったという話でした。

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今日は私のリカバリストーリーをお話ししましたけれども、こんな形でですね、いろんな方のリカバリストーリーを、みんなでシェアしていくことで、お互いの心を少しでもサポートして、それから苦しい人を少しでも支えていきながら、もっと穏やかで優しい社会が作れていくようになればいいなと思っています。

今日は私、為末大のリカバリストーリーをお話しました。

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