為末さんは、伸び悩んだことありますか?

為末 大

2024/09/12

Athlete Entrepreneur 伸び悩み
Spotify Amazon Music Apple Music

 
要するに「陸上」って何なのか?
人類の1つの到達点と答えが、このPodcastの中にあります。
 
00:19 『からだの特性や痛みとどのように向き合っていけばいいか?』(チャコ さん)
05:48 『スキルを身につけるためには、深さ? それとも、広さ?』(みどり さん)
12:26 『からだや能力が敵わない相手と、どう折り合いをつけるか?』(博士 さん)

スクリプト・文字起こし

00:00
リカバリーストーリーは、様々な人に悩みから立ち直った経験や考え方の工夫、日頃のストレス予防法や解消法を自由に話してもらうポッドキャストです。今回は伸び悩みに関して募集したご質問に私が答えていきたいと思っています。

00:19
『からだの特性や痛みとどのように向き合っていけばいいか?』(チャコ さん)

まず一人目のご質問は『チャコさん』、30代の女性の方からです。『はじめまして。小・中・高と陸上で短距離を行っており、幼少期から為末さんのご活躍を拝見しておりました。』ありがとうございます。『今回このようにご相談できる機会があると知り、ご相談させて頂ければと思い応募させて頂きました。【身体の特性とやりたいこととの兼ね合いについて】質問させて頂きます。年齢を重ね、しばらく運動することから離れていたものの、ここ1年ほどピラティスとヨガに没頭し週に4、5回ほどレッスンに参加しています。自分で想像していたよりもとても楽しく、趣味の範囲を超えて、講師の資格を取得しようと考え始めました。ただ、ヨガの様々なポーズを習得するうちに、自身の身体の特性(不具合)に気が付き始め、身体の痛みを抱えながらスポーツを続けることの難しさを実感しています。(私の場合はオスグッドや、ニーイントゥーアウトと呼ばれるようなものです。)多少なりとも年齢を重ねた今なら、そういった自分の体の特性を理解しながら向き合っていくことも分かるようになりましたが、若い頃の自分だったら、やりたいことがあるのに身体の特性上、痛みを伴い、できないことがあることをどのように解釈していただろう、と最近感じ、為末さんでしたらどのようにお伝えして、どのように身体と向き合っていくのか伺いたいと思い、ご連絡させて頂きました。』というものですね。

01:46
まあ運動するっていうときに、これでも楽しいですね、ピラティスとヨガね。あの分かりますよ、これ。陸上競技をやってる人がピラティスとヨガにはまるっていうのはすごいよくわかって。それをしながら自分の身体と対話するっていうのが陸上の特性なんですね。ちょっとだけ私もやったことありますけど、それをやりながら自分の身体こう感じるんだとか、こうやってやったらうまくいくんだっていうのを日々発見して楽しいんじゃないかなというふうに思うんですが、是非これ続けられたらね、素晴らしいなと思います。

さて、質問のですね、特性と向き合っていくっていうのですね。これはですね、確かにやりたいことがあるんだけれども、例えば痛みがあるとかですね、もうちょっと大きなもので行くと、きっと障がいの有無っていうのもあると思うんですね。障がいがあるから、そのスポーツができないっていう方もいらっしゃると思うんですね。それはとっても、制限かかって難しいことなんですけど、ただ、考えてみると我々の人生っていうのは、可能性があることなんて本当に限られてると思うんですね。ものすごく身長が高くないとなかなかバスケット(ボール)で活躍するのは難しいとかですね。または日本で生まれて育ったら英語はあるとしても、中国語を覚えるのが難しいとか、ポルトガル語は分かんないっていうのもあるかもしれないですし。例えば耳とか舌ですね。これも文化圏によって解像度が変わってくるっていうふうに言われていて、これは後天的には獲得できないですね。

だから言い換えてみると、人生っていうのは可能性が広がっていくっていう見方もできますし、幼少期の頃には無数の方向に広がっている可能性が刈り込まれていって、ある方向に特化していくっていうことも言えるかなと思うんですね。それ自体がちょっと寂しいなって気持ちがあるのも分かるんですけれども、その制限の中でどうやって自分の自由をやっていくかっていうことが、私は実は大切な知恵なんじゃないかと思うんですね。ただ、こういう感覚になる年齢っていうのがきっとあって、それはそれなりの経験をしてくるとか、人生の残り時間が少し見えるとかですね、そういうことからこういう発想になるだろうと思うんですけど、やっぱり若いうちは可能性が無限にあって、自分のやりたいことがある、だけど出来ないっていう、そのことに苦しむんじゃないかと思います。その苦しみ自体は非常に健全なんじゃないかと思うんですね。なので、すごい変なアドバイスになるんですけど、そういう制限があってやりたいことあるのにできないっていう苦しみ自体が、ある種の若さを象徴していて素晴らしいなと思うんですね。

その葛藤っていうのかな。最近私、この葛藤っていうものが、実は人生にとってとても苦しいんだけど、大切なんじゃないかと思うようになっていて、ですね。やっぱりやりたいけどできない、欲しいけど手に入らない、AかBかどっちか、Aを選べばBを失うみたいな、こういう状況で人っていうのは悩み、結局何かを選んだりするわけですけど、そのこと自体がとても人の成長に大事なものをもたらしてくれるんじゃないかと思うんですね。ですので、制限がある、やりたいけどできないことがあるみたいなことの中で、じゃあ、どうやって自分がやればいいんだろう、その中でやるのか、外でやるのかってことを含めてですね、選択していくっていうことが、内的な成長をうながして、それ自体が素晴らしいなというふうに、本人は嫌でしょうけどね、素晴らしいなというふうに思っています。是非ピラティスとヨガ、楽しんでやられてください。

05:48
『スキルを身につけるためには、深さ? それとも、広さ?』(みどり さん)

次のご質問です。『みどり』さん、20代の男性の方からですね。『スキルを身に付けていくために、何から取り組むべきなのか、悩みです。業務上で様々な職種の方々とお話する関係で、それぞれのスキルを把握する必要があるのですが、分かっていないことが多いです。そのため、話について行けず遅れを取ることがあります。勉強をしてスキルを習得する必要はあると思っていますが、どれか1つに特化して深く学ぶべきなのか?または、まんべんなく基礎的なことを理解すべきなのか?判断に迷っています。また勉強をしていく中で、どうすれば無理なく継続して取り組んでいけるか「コツ」的なものがあれば聞いてみたいです!』

06:29
ありがとうございます。『みどり』さんはとても真面目な方ですね。もう、それだけで十分じゃないかっていう気がしますけれども(笑)。1つですね、ちょっとお答えしたいなと思うところがですね、「スキル」と「知識」っていうのがあるのと、もう1つですね、「要点」と「具体的な知識」っていう。この2つ違うわけですね。

まず「スキル」と「知識」っていうのは「できる」と「分かる」と。まあ、もうちょっと言うとですね、「できる」と「知っている」でわけていいんじゃないかと思うんですね。「スキル」っていうのは、やっぱり「それができる」っていうことだと思うんですけど、一方で、そういうことができる方々と話すときに、「できる」とこまで行けば、要するに「知ってもいる」し、自分も「できる」から、より具体的な会話ができるだろうと思うんですけど、それをやろうと思うとですね、同じだけの時間をかけて「スキル」を習得しなきゃいけなくなって、大変時間もかかるわけですね。で、その場合、「分かってる」んだけど「できはしない」よ、と。「知ってる」んだけど「できない」よっていう状況に行くだけでも、実は結構違うんじゃないかと思うんですね。話して、一応単語の意味が「分かる」、何が行われているかも「分かる」、「でもお前できねえだろ」って言われたら、「まあできないです」、だけど「一応、知ってる」んで会話ができて、その間は質問で埋めていけばいいやっていう、こういう考え方もあるわけですね。多くの場合は、自分とは専門が違う人とやる時にはこういうやり方を人は行っていくわけですね。

でも良くないのは「知らない」ことでも人に外注しちゃったりとか、向き合うっていうことがあって、これになるとですね、相手が言ってることがそもそもどんな位置にあるのか自体が分からないので、これだとちょっとまずいのかなと思うんですね。なので、私のおすすめはまず「スキル」を持っている方たちと様々な職種の方とやり取りしていく中で「一応、知ってる」ってことと、あと、質問で埋めていくっていうこと、これを意識されるといいんじゃないかなと思います。勉強していく上でですね、もちろん学ぶのは大事なんだけど。

で、それともう1つ、これビジネスの話だろうと思うんですけど、ビジネスで実は重要だなと私が思っているのは「相場感」なんですね。つまり、「大体このぐらいの相場」っていうのが分かると、そこから考えが持っていきやすいわけですね。「大体これを発注すると、このぐらいが相場」、「大体こんなことやると、このぐらいが相場」。「相場」っていうのは、金額だけじゃなくて、出てくるアウトプットの質も、「大体こんなもんが出てくる」っていう。この「期待値」が著しくずれてると、とっても高い値段で発注してしまったり、または相手から出てくるアウトプットがすごいいいのに低く評価したり、すごい低いのに高く評価したりって、こういうずれが生じるわけです。なので、このなんとなくの「相場感」みたいなものを習得していくことが、1個1個のスキルを深く掘り下げる方向もありますけど、そうじゃないとしたら、これが結構重要なんじゃないかなというふうに思っています。

『20代』の方ですよね。『話について行けず、遅れを取る』っていうのは、みんなそうですね、私、34歳で引退しましたけど、30代はずっと遅れを取ってましたから。まあ、そんなもんだっていうことでいいんじゃないかと思います。

で、もう1つの方ですね。「詳細な知識」と「勘所(かんどころ)をつかむ」っていうことがあってですね。これどういうことかって言うと、私はちなみに「勘所をつかむ」っていうことが多いんですけど、「要するに」という捉え方をしていくわけですね。「大体ざっくり、この領域はこれが重要だよね」っていう、漠然(ばくぜん)とした「勘所をおさえに行く」っていうことと、「より具体的な知識を知っている」っていうことがあって、実はですね、この「勘所をおさえる」っていうところは、いろんな領域をまたいで学んでいくと、学んでいて意識していくとできるようになるんですね。できるようになると数分でその業界の「勘所がぱっとつかめる」ようになったりするんです。もちろん「詳細の知識」も無いし「スキル」も無いので、かなり粗くてですね、いろいろほころびはあるにしても、「でも大体これが大事だよねっていうのをつかむ」ことは、私はいろんな世界を見ていくとできるようになるんじゃないかと思います。

なぜなら、多くの場合、ビジネスの構造っていうのは外せない部分があって、そこがおさえられるからだろうと思うんですね。例えば、仕入れの部分とか、最後お金が発生する部分とか、価値の提供とかですね。なので、いろんな世界に対して触れていくっていうことを考えていくと、この「勘所をつかむ」っていうことはできたら良いんじゃないかと思います。それはいろんな世界の話を聞いて、いろんな世界の構造をとにかくとにかく頭に入れていけば、この「勘所をつかむ」っていうことができていくんじゃないかなと思っています。

最後にですね、『勉強していく中で無理なく継続、どうやっていけばいいんだろう』っていうことなんですけど、これはまあ習慣化するとか、いろんなそういうスキル、ライフハック的なスキル世の中にありますけど、私のおすすめはやっぱり自分が面白いと思うやり方に紐づけるっていうことですね。やり方かもしれないし、面白いと思う対象かもしれないですけど。ま、結局何か面白いと思ってやることの学習効果っていうのが圧倒的に大きすぎてですね。まあ、無理して必要だから学ぶことを凌駕(りょうが)しちゃうっていうのをたくさん見てきたので、なんか自分が面白いと思う事を見つけられるのがいいんじゃないかなというふうに思っています。

12:26
『からだや能力が敵わない相手と、どう折り合いをつけるか?』(博士 さん)

さて、次の質問ですね。これは『博士さん』、40代の男性からですね。『身体の違いがあることや能力で敵わない相手がいるという現実や前提に対して、どんな心構えを取っていけばよいでしょうか。日本や海外のスポーツもそうですが、社会でも、受験や出世競争において、同じような場面に出会うことがあると思います。どうやって折り合いをつけていけばよいでしょうか。』

12:50
はい。私は陸上競技っていう思いっきり身体能力が出る世界にいましたから、これは大変目の当たりにしていたわけですね。もう陸上始めて2年、3年っていうハードルを始めた若者がですね、もう圧倒的に私より30メートルは速くて、ハードルジャンプも高く飛ぶっていうのをいっぱい見てきたわけですね。

もう絶対これは敵わないって思うことも何度もありましたけど、その中で「自分にできることは結局何なんだろうか」っていうことをやっていきました。面白いものなんですけど、この単独の世界でもですね、能力がある人はあんまり深く考えないっていう傾向にあるんですね。傾向ですけどね、あくまで。両方やる人もいて、こういう人にはなかなか追いつけないんですけど、何か有利なものがあったりすると、そこに対してコンプレックスと言えばいいんですかね、弱点意識もないので、それをこう執着(しゅうちゃく)して考えるってことは、あんまりやらないんですね。で、それをやっていくと、実は見えてくるものが結構あったりするということだと思います。

特に陸上競技とかスポーツにおいては、「要するに何なのか?」っていうことをつかんでる人って少なかったんですね。例えば「陸上競技って何ですか?」って質問したら、何とか何とかっていういろいろ答える方いるんですけど、突き詰めると「物体移動」なんですね、陸上競技は。「物体をA地点からB地点まで運ぶ」っていうことが全ての陸上競技の根源にあって、100メートルもマラソンもそうですし、ハンマー投げは「ハンマーを運ぶ」、幅跳びは「自分の体を遠くに運ぶ」って、要するに「物体移動」の競技なので。「じゃあ物が速く動くとか、遠くに飛ぶってどういうことなんだろうか?」っていうのを、そこから目をそらさないで考えていくっていうのが大事だったなと思っています。

なので、どういう状況か分からないですけど、まず「そもそも自分たちがやろうとしていることは、すごくシンプルに言って何なのか?」っていうのを定めて、目をそらさずにそこに向けていくっていうのが大事なんじゃないかと思います。

もう1つですね、出世競争や受験っていうのはありますけれども、実は私、これ引退して感じるところがありまして、受験とスポーツはとっても似ています。何が似ているかっていうと、評価基準が既に開示されていて、はっきりしてると。で、受験で何をやると合格するかが分からないと、受験対策できないですよね。で、受験も明確に点数とってください、これがこうですっていう指標がはっきりしているので、そこに向けて自分を特化させていく、そこに適用させていくっていうのが受験勉強だろうと思います。基本的には、オリンピックのためのトレーニングも変わらないんですね。なので、受験のための勉強をするっていうことと、大会に向けてスポーツの練習をするっていうのは、私はちょっと似てるなと思っています。

一方で、社会に出て何を思うかって言うとですね、この評価指標がはっきりしないわけですね。つまり、『能力で敵わない相手』というふうにここで書かれてますけども、『かなう』とは一体何なのか?っていうことなんですね。例えば、社会的にある産業の中で価値を提供して、頼られる人間になるっていう時に、すごく単独で能力を発揮するって頼られ方もありますし、長い間その領域の中でいろんな人を手助けしていって、ネットワークが広がっていって、その人がお願いすれば聞いてくれる人がいるという、こういう頼られ方もあるわけですね。だから、同じような状態を作るために、本当にたくさんのファイティングスタイルがあって。で、それが人によっていろんなやり方でやってるのが、私はビジネスじゃないかと思います。

もう1つ大きいのは、自分一人でやれてることなんてほとんど無くて、周りの人との協力で成り立ってるってことかなと思うんですね。ですので、この何かで敵わない相手がいるっていうことに対して、それが非常に不利に働くのは、せいぜい単独のスポーツとか受験の場面ぐらいで、社会に出ると自分が持っている能力を、どうやってやり方と組み合わせていくかっていうことが大切なんだろうと思います。特に他者と協力し合えるっていう能力は、個人の能力の高さを私は上回るぐらいに大事なことなんじゃないかなというふうに思っています。

ですので、『どんな心構えを取ればいいか?』って言うと、「現実を認める」ってことになって、要するに「何かを考える」ってことになるんですけども、もうちょっと大きな視点でいくと「個別の能力で戦うなんていうのは社会の中の特殊な世界でしか無い」ので、「もうちょっと複雑で協力し合うような社会において、どうやれば自分は最も価値を提供してコミュニティーを支えられるだろうか?」っていうことを考えていくのが良いのではないかなというふうに思います。

18:00
ということで、「子育て」と「伸び悩み」に関するご質問にお答えしてきました。

この『リカバリーストーリー』の大きな目的は、成長していくアドバイスをもらうっていうよりも、『同じような悩みを抱えている人がいるんだなあ』と。『みんなその中でいろいろ、えっちらおっちらやってるんだなあ、っていうことを感じてもらいながら、心に優しい社会を作っていく』っていうのが、この『リカバリーストーリー』の目的になります。

『#3 質問募集編』のエピソードでもお話をしましたけれども、悩みは解決しなきゃいけないって思いがちなんですけど、実は他者と共有するだけで、悩みそのものの根源、心の苦しさっていうものが軽くなることもありますので、是非視聴者の皆さんもですね、他の方の悩みを聞いて、似てる部分があったら周りに話してみるとかですね、そんなことをやっていくことで、(悩みから)少し距離を置いて気持ちが楽になっていくのではないかなと思います。私の話がそんな皆さんの心を軽くすることへの1つの助けになっていたら、とても嬉しいなあと思います。

Episode